本学教員による「強制水泳(FS)誘発うつ病モデルマウスへの鍼治療による抗うつ効果と神経栄養因子の制御」が、SAGE Publishing社のAcupuncture in Medicine誌に掲載されました。

2022年06月07日

うつ病の治療には主に薬物治療が施されていますが、その効果には個人差があり、副作用もあります。近年、うつ病に対する補完代替医療として鍼灸治療が注目されています。頭部にあるGV20「百会穴」とEx-HN3「印堂穴」の2つの経穴(ツボ)は、うつ病、不安、心理的ストレスの鍼灸治療に使用される重要な経穴です。

今回、鍼灸サイエンス学科の山本晃久教授らは、強制水泳(forced swim: FS)誘発うつ病モデルマウス(FSマウス)を用いて、GV20とEx-HN3の同時鍼刺激を行い、その予防効果と治療効果の解析、治療薬イミプラミン投与との比較、さらに刺激部位特異性について解剖学的に離れた場所(背柱上の2カ所)の鍼刺激との比較試験を行いました。

その結果、GV20とEx-HN3の鍼刺激は、予防効果と治療効果の両実験において、FSマウスの無動時間を有意(p<0.05)に減少させ、治療効果ではイミプラミン投与と同程度の有効性を示しました。背柱上の2カ所の鍼刺激は、予防効果実験では無動時間を有意に減少させましたが、その抑制効果は、GV20とEx-HN3の鍼刺激よりも有意に低いものであり、治療効果では、FS終了後の無動時間の増加に変化は見られませんでした。このメカニズムを解明するため、FSマウスの脳内における神経栄養因子の発現量を解析したところ、GV20とEx-HN3の鍼刺激は、予防効果実験において、FSマウスで低下した脳由来神経栄養因子(BDNF)とニューロトロフィン(NT)-3 の発現量を有意に増加させ、治療効果実験においても、神経成長因子(NGF)、BDNF、NT-3、NT-4/5の発現量が有意に増加していることを認めました。この効果は抗うつ薬投与、背柱上の2カ所の鍼刺激ではみられませんでした。

これらの結果から、百会穴と印堂穴の鍼刺激は、神経栄養因子の発現の不均衡を是正することで抗うつ効果を発揮することが示唆されました。また背柱上の2カ所の鍼刺激との比較により、刺激部位特異性のあることも示唆されました。

この研究には、鍼灸サイエンス学科の山本晃久教授、川ノ口潤准教授、有馬寧教授、髙木健准教授、長岡伸征助教、石田寅夫名誉教授、明治国際医療大学の林知也教授が参画し、研究成果は鍼灸医療分野で最上位の学術雑誌であるSAGE Publishing社 (UK)のAcupuncture in Medicine誌に掲載されました。

Yamamoto T, Kawanokuchi J, Nagaoka N, Takagi K, Ishida T, Hayashi T, Ma N. Antidepressant effects of acupuncture in a murine model: regulation of neurotrophic factors. Acupunct Med. 2022 May 17;9645284221085279. doi: 10.1177/09645284221085279.

-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏治-