本学大学院生による亜鉛の大腸がん抑制作用に関する研究成果が、MDPI社のInt. J. Mol. Sci. 誌に掲載されました

2023年06月13日

亜鉛は私たちの身体を作る重要な栄養素のひとつです。亜鉛が不足すると、味覚異常、創傷治癒遅延、免疫異常などの様々な症状が出ます。また、血清亜鉛濃度が低い人では悪性腫瘍や感染症が増悪する可能性が高いとの臨床成績が報告されています。日本国内の調査で、高齢者の4人に1人が亜鉛不足であったという報告もあり、日常的に亜鉛を適切に摂取することは健康の維持に非常に重要です。しかし、亜鉛の生体内での役割とその作用メカニズム、特に腫瘍免疫における亜鉛の役割はまだ十分に解明されていません。

こうした背景のもと、薬学研究科大学院生の中川さんは西田教授の指導の下、亜鉛と腫瘍免疫の関係を明らかにするため、大腸がんマウスモデルを用いて亜鉛摂取の予防効果について解析しました。その結果、亜鉛の摂取量が多いマウスほど大腸における腫瘍の数が減少し、また、亜鉛の大腸がん抑制効果の発揮には免疫担当細胞のT細胞が必要であることが明らかになりました。さらに、亜鉛を投与したマウスの脾臓細胞(T細胞を含む)に抗原刺激を与えてエフェクター分子(タンパク質に結合してその生理活性を制御する小分子)の転写量を解析したところ、グランザイムB* の有意な増加を認めたことから、亜鉛は細胞傷害性T細胞**のグランザイムB転写量を増加させることにより大腸がんを抑制することが示唆されました。

以上の研究から、亜鉛を適切に摂取することは、がんの予防に役立つ可能性があると考えられました。

本研究には薬学研究科?中川直也 大学院生、薬学科?藤澤 豊 助手、薬学研究科?西田圭吾 教授が参画しました。

*グランザイムB: 細胞傷害性T細胞などが放出する分子で、がん細胞などの標的細胞に細胞死を引きおこします。
**細胞傷害性T細胞: がん細胞やウイルス感染細胞などを認識して破壊する役割のある免疫担当細胞です。

Nakagawa N, Fujisawa Y, Xiang H, Kitamura H, Nishida K. Inhibitory effect of zinc on colorectal cancer by granzyme B transcriptional regulation in cytotoxic T cells. Int. J. Mol. Sci. 2023, 24(11), 9457. https://doi.org/10.3390/ijms24119457

-副学長(大学院?研究担当)鈴木 宏治-