真菌症は、がん患者や臓器移植患者、AIDS患者など免疫力が低下した人に起きやすく、人口の高齢化に伴い患者は増加傾向にあります。この真菌症に対する治療薬は少なく、予防を含めた治療対策が大きな課題になっています。
一般に細菌や真菌などには、環境変化に伴って病原性や薬剤に対する抵抗性(薬剤耐性)が増す性質があり、そのメカニズムの解明が急がれています。本学?薬学科の中山浩伸教授と森田明広助教は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の宮崎泰可講師らと共同で、臨床上重要な病原性真菌カンジダ?グラブラータを用いて、環境変化を細胞内に伝える際に働く真菌内酵素の一つであるElm1に着目し、その役割を解析しました。Elm1は真菌の分裂や形態形成、薬剤耐性などに関わるセリン/スレオニン?リン酸化酵素の一種ですが、病原性との関係は明らかではありませんでした。解析の結果、Elm1遺伝子を欠損した変異株やElm1酵素の活性を消失させた変異株では、薬剤感受性の上昇、増殖の遅延、細胞の形態異常、病原性の上昇が認められました。この病原性の上昇の原因には、真菌の上皮細胞への接着性の亢進が考えられ、実際に変異株で処理した上皮細胞では30個の細胞接着関連分子の発現増加が認められました。
病原性真菌の病原性の上昇にElm1酵素が密接に関わることを証明した本研究は、今後の真菌感染症の予防薬や治療薬の開発につながるものと期待されます。
Yuya Ito, Taiga Miyazaki, Hironobu Nakayama, Akihiro Morita, et al. Roles of Elm1 in antifungal susceptibility and virulence in Candida glabrata.
Sci Rep 2020 Jun 17;10(1):9789. doi: 10.1038/s41598-020-66620-7
-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏冶-