薬学科教員の研究成果が、エルゼビア社の学術雑誌Archives of Biochemistry and Biophysicsに掲載されました。

2020年09月23日

血液中の白血球の一種である好中球は生体防御作用に重要な細胞であり、細菌などの異物を捕獲して殺菌することが知られています。最近、このメカニズムが詳細に解析され、好中球は自らの命を絶つと同時にDNAを細胞外に網状に排出して異物を捕えることが分かり、この現象は好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps)と呼ばれ、好中球の細胞死に伴う変化としてNETosisと呼ばれています。がんや全身性エリテマトーデス(SLE)、最近の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でおきる肺炎ではNETosisが亢進することが明らかにされています。本来、NETosisは生体を防御するための反応ですが、過度なNETosisは炎症を増悪化するため、NETosisのメカニズムの解明は、炎症性病態の理解に重要です。

本学?薬学科の佐藤英介(教授)、堤 智斉(准教授)、森田明広(助教)、安田浩之(助手)、瀧下 裕(大学院生)は、NETosisがエピジェネティックス(遺伝子の構造変化を伴わない遺伝子発現量の変化のこと)に制御されている可能性について、DNAメチル化転移酵素であるDNMT1の阻害薬(5-azacytidine)を用いて解析しました。そして、NETosis誘導の鍵となる酵素のペプチジルアルギニンデイミナーゼ4(PAD4)(核のヒストンタンパク質のアルギニンをシトルリンに変化させてDNAを放出しやすくする酵素)がDNAのメチル化を阻害することによっての発現量が増加し、好中球がNETosisを起こしやすくなることを明らかにしました。好中球のNETosis誘導が、PAD4のエピジェネティックス制御を受けていることを世界で初めて明らかにした本研究は、今後の炎症性病態の治療薬の開発につながるものと期待されます。

掲載論文:
Hiroyuki Yasuda, Yutaka Takishita, Akihiro Morita, Tomonari Tsutsumi, Masahiko Tsuchiya, Eisuke F. Sato: DNA demethylation increases Netosis.
Arch Biochem Biophys (2020);689:108465. DOI: 10.1016/j.abb.2020.108465

-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏冶-