本学教員による「社会的敗北ストレス誘発うつモデルマウス」への鍼刺激による治療効果に関する研究成果が、Frontiers社のFrontiers in Behavioral Neuroscience誌に掲載されました。

2021年08月02日

うつ病は、感情、思考、認知、行動などの障害を特徴とする気分障害です。うつ病の治療には、主に抗うつ薬による治療が行われますが、副作用を誘発することが多く、最近では鍼灸治療をはじめとする代替療法が注目されています。しかし、鍼灸のうつ病に対する効果のメカニズムについては、よく分かっていません。

本研究で、鍼灸サイエンス学科の川ノ口潤准教授らは、ヒトの症状に最も近い社会的敗北ストレス(social defeat stress: SDS)誘発うつ病モデルマウス(SDSマウス)を用いて、鍼治療の効果を解析しました。具体的には、SDSマウスに対して、GV20「百会穴」とEx-HN3「印堂穴」に同時置鍼を行い、鍼治療の予防?治療効果を解析したところ、薬物治療と同程度の治療効果を認めました。このメカニズムを明らかにするため、SDSマウスの脳内における神経栄養因子の発現量を解析したところ、GV20とEx-HN3への2週間の同時鍼灸刺激により、SDSマウスで低下した脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ニューロトロフィン-4/5(NT-4/5)の発現量が回復していることが認められました。この効果は抗うつ薬投与ではみられませんでした。

この結果から鍼灸治療は、神経栄養因子の発現の不均衡を是正することで抗うつ効果を発揮することが示唆されました。また、神経栄養因子の発現に及ぼす鍼灸治療の効果は抗うつ薬よりも早期に現れることから、鍼灸治療がうつ病の優れた治療法となることも示唆されました。

この研究には、鍼灸サイエンス学科の川ノ口 潤准教授、髙木 健准教授、山本晃久教授、有馬 寧教授、長岡伸征助教、医療栄養学科の棚橋伸行教授、石田寅夫名誉教授が参画し、研究成果はFrontiers社のFrontiers in Behavioral Neuroscience誌に掲載されました。

掲載論文:
Kawanokuchi J, Takagi K, Tanahashi N, Yamamoto T, Nagaoka N, Ishida T and Ma N. Acupuncture treatment for social defeat stress induced depression. (2021) Front. Behav. Neurosci., 28 July 2021
https://doi.org/10.3389/fnbeh.2021.685433

-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏治-