本学の教員による経口血液凝固阻害薬の抗腫瘍作用に関する論文が、血栓止血学分野の学術雑誌 Thieme Medical Publishers社のTH Open誌に掲載されました

2023年02月13日

直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)は、非弁膜症性心房細動患者の脳血栓塞栓症の発症予防、先天性?後天性血栓性素因患者の動静脈血栓塞栓症の発症予防に広く用いられています。近年、血液凝固Xa因子阻害薬の低分子ヘパリンに抗腫瘍作用のあることが報告されましたが、これを否定する報告もあり定かではありませんでした。

本学薬学科の平本恵一助教らは、マウス由来大腸癌細胞(Colon26)を接種したBALB/c雄性マウスに、3種のDOAC?トロンビン阻害薬:dabigatran etexilate、Xa因子阻害薬:edoxaban (EDX) 及び rivaroxaban?を夫々毎日経口投与し、癌細胞の増殖に及ぼす影響を解析しました。その結果、特にEDXに著しく有意な癌増殖抑制作用(75%抑制)が認められました。分子薬理学的解析の結果、癌細胞移植マウスでは癌細胞由来の組織因子がマウス体内で血液凝固?炎症反応を惹起し、生成されたXa因子が癌細胞?周囲細胞のXa因子活性化受容体(PAR2)を活性化して癌関連の転写因子や増殖因子の産生を促進させること、これに対して、EDXはPAR2の活性化を阻害して癌細胞の増殖を抑制させ、さらに腫瘍組織のアポトーシス(プログラム細胞死)を増加させることが明らかになりました。

この結果は、Xa因子特異的DOACのEDXは癌患者に高頻度にみられる血栓塞栓症の発症予防だけでなく、癌細胞の増殖を抑制することを示しており、EDXの適応拡大や新しい作用機序に基づく癌治療薬の開発につながる可能性を示しています。

本研究は科研費助成金(基盤研究C;16K08633及び19K08850)の補助の下に、薬学科の平本恵一助教、鈴木宏治教授、多数の卒研学生、臨床工学科の秋田展幸准教授、臨床検査学科の西岡淳二教授によって実施され、下記の論文に報告されました。

Hiramoto K, Akita N, Nishioka J, Suzuki K. Edoxaban, a factor Xa-specific direct oral anticoagulant, significantly suppresses tumor growth in colorectal cancer colon26-inoculated BALB/c mice. TH Open 2023 Jan 7;7(1):e1-e13. doi: 10.1055/s-0042-1758855.

-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏治-