本学教員による「アゾラト架橋白金(II)二核錯体はアンドロゲン受容体を介して前立腺がん抑制活性を発揮する」と題する論文がアメリカ化学会のInorganic Chemistry誌に掲載されました

2024年11月06日

前立腺がんの発生や進展には、男性ホルモンのアンドロゲンが重要であることが知られています。アンドロゲンは、前立腺細胞に存在する核内受容体であるアンドロゲン受容体(AR)に結合し、遺伝子の発現を調整するため、ARは前立腺がん治療薬の標的の一つになっています。本学の米田誠治教授らによって分子設計されたアゾラト架橋白金(II)二核錯体 5-H-Yは、シスプラチンに代表される白金製剤と同様に、核DNAに結合して、がん細胞にアポトーシス(※細胞死)を誘導することが知られています。これに加えて、最近、5-H-YがARシグナル伝達阻害活性を有することが示されました。

本研究では、この点を検証するため、ヒト前立腺がん細胞に対する5-H-Yの効果を解析し、5-H-Yがシスプラチンよりも強いがん増殖抑制作用を示すこと、また、5-H-Y が ARに直接結合して核に移行し、AR シグナル伝達を阻害してがん細胞にアポトーシスを誘導し、細胞増殖を抑制することを明らかにしました。一方、シスプラチンにはARシグナル伝達の阻害作用は認められませんでした。この結果から、分子内にアンドロゲン様構造をもたない白金(II)錯体がARシグナル伝達を介する前立腺がんの増殖を阻害すること、また、5-H-YはDNAに加えてARも標的としてがん細胞にアポトーシスを誘導することが明らかになり、5-H-Yは前立腺がんの新しい治療薬になる可能性が示されました。

本研究成果は無機化学分野の権威ある雑誌Inorganic Chemistryに掲載され、研究成果に基づいて作成したイメージ画像が掲載誌の表紙画に採用されました。

本研究は芝浦工業大学の廣田佳久 准教授(責任著者)らとの共同研究であり、本学薬学科の米田誠治 教授(責任著者)、森井孫俊 教授、植村雅子 助教が参画しました。

掲載論文:
T. Arai, M. Oshima, M. Uemura, T. Matsunaga, T. Ashizawa, Y. Suhara, H. Yoneyama, Y. Usami, S. Harusawa, S. Komeda, and Y. Hirota: Azolato-bridged dinuclear platinum (II) complexes exhibit androgen receptor–mediated anti–prostate cancer activity Inorg. Chem. 2024, 63, 44, 20951-20963 doi: 10.1021/acs.inorgchem.4c01093

-副学長(大学院?研究担当)鈴木 宏治-