てんかんは脳神経細胞の過剰な興奮によって生じる発作を特徴とする疾患です。薬物によって治療できる症例もありますが、側頭葉内側部に存在する海馬の異常を原因とする内側側頭葉てんかんには薬物が効かない症例もあり、このような症例に対しては過剰な興奮が発生する部位を外科的に切除する手術が行われています。切除された組織では多くは神経細胞が失われ、グリア細胞が増殖した海馬硬化と呼ばれる変化がみられますが、海馬硬化をほとんど示さない患者もいます。このような組織学的な違いはどうして起きるのか、これまで明らかではありませんでした。
この度、本学薬学科の古川絢子助教は、新潟大学、香川大学、杏林大学、西新潟中央病院の研究者らと共同して、海馬硬化に関与するタンパク質を詳細に解析し、海馬硬化では、神経突起伸長に関わるスタスミン1の発現が増加し、セリン合成に関わる酵素であるD-3ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼが減少することを明らかにし、表記雑誌に発表しました。
これまで脳内で生じる現象の多くは、死後の剖検脳を用いて研究されてきましたが、本研究では患者から外科的に切除された組織を用いることで、死後の時間経過による変化の影響を受けることなく、海馬硬化を特徴付けるタンパク質の発現変化を解析することが可能になりました。本研究成果は、てんかんの病態形成のメカニズムを知る重要な手がかりになるものと期待されます。
掲載論文:
Furukawa A, Kakita A, Chiba Y, Kitaura H, Fujii Y, Fukuda M, Kameyama S and Shimada A. Proteomic profile differentiating between mesial temporal lobe epilepsy with and without hippocampal sclerosis. (2020) Epilepsy Research 168:106502. doi: 10.1016/j.eplepsyres.2020.106502.
副学長(大学院?研究担当)鈴木宏治