本学教員と三重大学病院との共同研究による「人工心肺装置の回路への抗菌薬の吸着に関する研究」の成果が、人工臓器に関する学術雑誌ASAIO journalに掲載されました

2022年11月21日

COVID-19の蔓延により広く知られるようになった体外式膜型人工肺(ECMO)は、肺や心臓に損傷を受けた患者に対して行われる生命維持療法です。しかし、薬物療法の観点から、通常の感染症患者に対する抗菌薬療法の治療指針がECMO治療患者にも同様に適応できるかどうかは明らかでなく、また、現在我が国のECMOで主に用いられているヘパリン(H)-コーティング回路と合成高分子(X)-コーティング回路への薬物の吸着性の違いに関するデータはありませんでした。

そこで本学の榎屋友幸准教授は三重大学病院の教職員との共同研究により、H-コーティング回路およびX-コーティング回路における抗菌薬(セファゾリン、ドリペネム、ダプトマイシン、レボフロキサシン)の吸着性について解析しました。実験では、臨床現場で用いられている両ECMO回路に、抗菌薬を一定濃度になるように添加したウシの新鮮全血を24時間循環させ、経時的な薬物濃度の変化を測定しました。

その結果、H-コーティング回路にドリペネムを循環した場合にのみ有意な低下がみられ、それ以外の抗菌薬にはどちらの回路においても吸着による濃度低下はみられませんでした。この実験データに基づき、患者がH-コーティングのECMO回路を装着した状況を想定してシミュレーションを行い、ドリペネムの低下が臨床上どの程度影響するかを検証しました。この結果から、ドリペネムがH-コーティングECMO回路に吸着されたとしても、臨床上は問題がない範囲の低下であると推測されました。

以上の結果から、H-コーティングまたはX-コーティングのECMO回路を装着している患者においては、抗菌薬のセファゾリン、ドリペネム、ダプトマイシンおよびレボフロキサシンを投与する際に、回路への吸着の影響を考慮する必要はなく投与できることが明らかになりました。

本研究成果は米国人工内臓学会関連の学術雑誌ASAIO journal(Wolters Kluwer社)に掲載されました。

Kato T, Enokiya T, Morikawa Y, Okuda M, and Imai H, Sequestration of Antimicrobial Agents in Xcoating and Heparin-Coated Extracorporeal Membrane Oxygenation Circuits: An In Vitro Study (2022) ASAIO journal, 10, 1097. doi: 10.1097/MAT.0000000000001842

-副学長(大学院?研究担当)鈴木宏治-